「シュッツってどんなひと?」第2回

BCJ11月定期 ハインリヒ・シュッツ 公演前 特別企画 インタビュー連載 「シュッツってどんなひと?」第2回

お話:佐藤望先生(慶應義塾大学教授)

 

~第2回 シュッツの人となり~激動の時代を生きて~

バッハ・コレギウム・ジャパンの11月定期公演「主に感謝せよ、その慈しみはとこしえに〜ダビデ詩編(抄)〜」公演前特別インタビュー「シュッツってどんな人?」。慶應義塾大学の佐藤望先生に4回にわたってお話を伺います。

第2回となる今回はシュッツの生涯とその時代背景を知ることで、当時の環境が彼の音楽にどのような影響を与えていったのかを探っていきます。

 

―― 前回、シュッツは非常に長生きをした人だとお聞きしました。

佐藤 1585年、ドイツ中部の田舎町ケストリッツの宿屋の息子として生まれたシュッツは、幼少期をヴァイセンフェルスで過ごし、カッセルで最初の職を得ました。その後、ヴェネツィアに留学し、当時最高の教会音楽家・教師として名を馳せたジョヴァンニ・ガブリエリに学びます。カトリックとプロテスタントの宗派の違いはあったものの、死の床でガブリエリはシュッツに形見として指輪を託したと伝えられており、まさしく最愛の弟子であったといえるでしょう。

 

―― ヴェネツィアではどんな音楽を学んだのでしょうか。

佐藤 シュッツが経験したのは最新の華麗なコンチェルト様式と、斬新な劇場様式でした。劇場様式は言葉の表象と音楽の表象を一致させ、絵画で描くかのように、そして語りかけるように表現する新しい様式です。一方、コンチェルト様式はさまざまな旋律や音響、楽器や歌を、時に交替させ、合わせ、競わせ、協調させる華やかな様式でした。 ガブリエリの死後、ドイツへ戻ったシュッツは1617年、ドレスデンの宮廷楽長に就任します。この年はルターの宗教改革百年祭が行われ、ハプスブルク家の神聖ローマ皇帝もドレスデンを訪れました。今回の公演で行われる「ダビデ詩編集」はこの歴史的行事に合わせたものだと考えられます。イタリアの最新音楽を取り入れたこの楽曲は、恩師ガブリエリから最高の教育を受けた作曲家としての誇りと、ザクセン選帝侯国の栄華を彩るという2つの顔を持つのです。

 

DSC_0033

佐藤望先生

 

―― シュッツの生きた時代は大きな戦争も起きた激動の時代でもあります。

佐藤 そうですね。「ダビデ詩編集」の発表前後は純粋な信仰運動の広がりと、為政者たちの政治的駆け引きとが絶妙なバランスを取っていましたが、1618年、三十年戦争が勃発しました。この戦争の時代には約三分の一ほどの人口減少があったとされています。また戦争以外でも伝染病や貧困による犯罪などが多発。庶民の運命は支配者たちの手に委ねられ、人を幸せにするはずの宗教も闘争と憎悪の火種となり、人々の心は荒廃していました。 戦争に乗じてドレスデンの音楽活動は一挙に凋落していきます。シュッツはデンマーク王子クリスティアンV世の結婚式用音楽の依頼により1633年にコペンハーゲンへ赴き、1635年まで滞在します。 デンマーク王室との関係はその後も続き、1642年から1644年にかけて再び、シュッツはかの地を訪れました。この頃のデンマークは度重なる敗戦で疲弊しきっており、豪華な音楽を演奏する音楽家も費用も持ちあわせていませんでした。シュッツはこの間、デンマーク王子との友情を温め、数人の楽師で演奏できる、しかし最高の質の音楽を書く力を磨いていきました。公演プログラムの《シンフォニア・サクラ集》第2巻は、その間に仕上げられた作品集のひとつで、王位を継ぐことなく早逝した王子へ死後に献呈されています。

 

―― 佐藤先生はシュッツをどのような人であったと思われますか?

佐藤 彼は音楽に対し非常に純粋な人だったのでしょう。かといってシュッツにとって音楽とは単に自己を表現する道具ではなく、神と主君に忠実に仕えるためのものでした。神から与えられた非凡な才能を最大限に発揮することで、最高の作品を書き、最高のパフォーマンスをし続けようとする不撓不屈の作曲家であったと私は考えています。

<取材・文/石山 真紀>

3回目はこちら 

 

第1回はこちらから https://bachcollegiumjapan.org/110-interview-vol1/

 

bcj-110

公演情報はこちらから↓
https://bachcollegiumjapan.org/

<バッハ・コレギウム・ジャパン 定期公演>
主に感謝せよ、その慈しみはとこしえに ~ダビデ詩編(抄)

ハインリヒ・シュッツ
ダビデ詩編歌集 Op. 2より
第21番「涙をもって種を撒くものは」SWV42(詩編第126編)
第24番「主に感謝せよ、その慈しみはとこしえに」SWV45(詩編第136編)
第26番「主に向かって、喜ばしき声をあげよ」SWV47 他
シンフォニエ・サクレ 第2集 Op.10より
「神よ、立ち上がって、その敵を散らし」SWV356(詩編68編)
「主に向かって新しき歌を歌え」SWV342(詩編96編)
ザムエル・シャイト
ベルギー風カンツォン
カンツォン・ベルガマスカ 他

指揮:鈴木雅明
ソプラノ:松井亜希、藤崎美苗/アルト:青木洋也/テノール:谷口洋介/
バス:渡辺祐介
ツィンク&トロンボーン:コンチェルト・パラティーノ
合唱・管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン

<第232回神戸松蔭チャペルコンサート>
2014年11月22日(土)開演3:00PM 開場2:30PM
神戸松蔭女子学院大学 チャペル

料金:
1階指定:8,000円(ペア前売: 15,000円 BCJチケットセンターのみ取扱い) 2階立見席:4,000円(限定30席)

プレイガイド:
◎バッハ・コレギウム・ジャパン チケットセンター 03-5301-0950
◎イープラスhttp://eplus.jp/sys/T1U89P0101P006001P0050009P002002843P0030126P0006
◎ローソンチケット 0570-084-003 [Lコード58472]
http://l-tike.com/pc/d1/AA01G04F1.do?txtEvtCd=58472&txtPerfDay=20141122&txtPerfSeq=+&venueCd=50687&srcID=AA02G08

<第110回東京定期演奏会>
2014年11月24日(月・休)開演3:00PM 開場2:30PM
東京オペラシティコンサートホール:タケミツメモリアル

料金:
S:8,000円(ペア前売: 15,000円 BCJチケットセンターのみ取扱い) A:6,500円 B:5,000円

プレイガイド:
◎バッハ・コレギウム・ジャパン チケットセンター 03-5301-0950
◎東京オペラシティーチケットセンター 03-5353-9999
◎チケットぴあ 0570-02-9999 [Pコード230-601]
http://ticket.pia.jp/pia/event.do?eventCd=1417402
◎イープラス
http://eplus.jp/sys/T1U89P0101P006001P0050009P002002843P0030129P0006
◎ローソンチケット 0570-084-003 [Lコード35916]
http://l-tike.com/pc/d1/AA01G04F1.do?txtEvtCd=35916&txtPerfDay=20141124&txtPerfSeq=+&venueCd=33913&srcID=AA02G08
◎ヴォ―トル・チケットセンター 03-5355-1280